
そもそもポリファーマシーって?
「ポリファーマシー」という言葉をご存知でしょうか。
これは、5種類以上の薬を同時に服用している状態を一般的に指す医学用語ですが、単に薬剤数が多いことではありません。。
高血圧、糖尿病、心臓病…と持病が増えるにつれて、処方される薬の数も自然と増えていきます。特に高齢の方では「朝だけで10錠以上」というケースも珍しくありません。
薬が多いと「安心」と思いがちですが、実は落とし穴があります。
- 不要な処方や重複
- 副作用の積み重ね
- 「処方カスケード」と呼ばれる負の連鎖
(副作用を新しい病気と勘違いして、さらに薬が追加されてしまう現象)
数が増えるにつれて薬物有害事象のリスクが上がり、服薬過誤、服薬アドヒアランス低下など問題につながる状態を言います。ちなみに日本のある5つの大学病院の老年科外来の研究では、平均76歳の高齢者で平均処方薬剤数は4.4種類でした。(BMJ OPEN11, 5: e00751, 2015)
なぜ問題なの?
1. 副作用(ADEs)のリスク増大
薬の数が増えるほど、相互作用によるトラブルも増えます。
- PPIと鉄剤を一緒に飲むと、鉄の吸収が減少してしまう
- 抗うつ薬とトラマドールを併用すると、副作用のリスクが上がる
「薬が病気を治す」つもりが、知らないうちに薬が効かない、むしろ悪影響になるなど「薬が体を弱らせる」結果につながることがあるのです。
2. 飲み忘れ・残薬問題
薬が多いと、管理が難しくなります。
「これは朝?夜?」「昨日飲んだっけ?」と混乱し、飲み忘れや残薬が発生。
家の引き出しに大量の薬が眠っていた、なんて経験がある方も多いのではないでしょうか。
2007年に日本薬剤会が実施した調査では、在宅患者の4割以上に残薬が見られた報告があります。
3. 社会的・経済的影響
ポリファーマシーは個人だけでなく、社会にも影響を与えています。
日本では残薬の薬剤費により、年間500億円規模の経済的損失があると推定されており、医療費増大の一因になっています。
なぜ起こるの?
ポリファーマシーは、決して「誰かが悪い」から起こるわけではありません。
- 患者側:多疾患併存、複数の医療機関を受診しており、処方が重複しやすい、薬への過度の期待
- 医師側:他院の処方をすべて把握できない、時間が限られている、ガイドライン中心の診療
- 環境:診療報酬や医療体制の仕組み上、薬を減らすインセンティブが弱い、医療機関での連携不足
- 背景:高齢化で持病が増え、「薬を飲んで当然」という文化がある
こうした複数の要因が重なって、いつの間にか「薬漬け」になってしまうのです。
対策のカギ
✅ 他職種アプローチ
医師だけでなく、薬剤師・看護師も含めたチームで薬を見直すことが重要です。
特に睡眠薬や降圧剤など、高齢者にはリスクが高い薬を洗い出すことが必要です。
✅ 減薬は「一度に1剤」
「薬を減らしたいけど、いきなり全部やめるのは不安」という方も多いでしょう。
そこで大事なのが、一度に1種類ずつ減らす原則。
まず1剤、様子を見て次の1剤、と段階的に調整することで安全に進められます。
✅ 患者さんとの対話
医療者が勝手に「この薬は不要です」と決めるのではなく、患者さんとの共有意思決定が欠かせません。「薬の数についてどう感じていますか?」というオープンクエスチョンを投げかけたり、
rPATD(減薬への意欲や不安を確認するツール)を活用することで、より納得感のある調整ができます。
✅ 入院は見直しのチャンス
例えば、入院時に6種類あった薬が退院時には4種類に減る。
これだけでも生活の質が大きく変わりますし、医療制度的にも薬剤調整加算がつくケースがあります。
実際にあったケース
80代の女性が「朝だけで12種類の薬」を服用していました。
めまいや食欲不振がありましたが、原因がわからないまま薬が追加され続けていました。
処方を整理し、最終的には12種類→5種類に。
すると症状が改善し、食欲も戻り、日常生活が見違えるように楽になったのです。
「薬を減らす=悪化する」わけではなく、むしろ生活の質を取り戻すきっかけになるのです。
まとめ
ポリファーマシーはただの「薬が多い状態」ではありません。
- 副作用リスク
- 飲み忘れや残薬
- 医療費への影響
といった形で、健康・生活・社会全体に影響を与える大きな課題です。
大切なのは「必要な薬を、必要なだけ」。
薬を減らすことは怖いことではなく、本当に必要な薬を選び抜くプロセスなのです。
もし「薬が多くて不安」「飲むのが大変」と感じたら、主治医や薬剤師に気軽に相談してみてください。
ポリファーマシーを解消することは、より安心して暮らせる第一歩になります。
コメント